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お兄ちゃんは怪訝そうに、わたしの顔を覗き込みました。
「ふふふふ……だいじょうぶ、なんでもない」
やっぱりお兄ちゃんだけは特別なんだ、と思うと、
わたしは笑みがこぼれるのを抑えられませんでした。
熱は下がりましたけど、微熱は残りました。
結局わたしは、2週間ほど寝込む羽目になりました。
日曜学校にも顔を出さないので、心配したUとVが見舞いに来ました。
Vの持ってきたお見舞いの花を生けながら、Uが言いました。
「なんや○○、ずっと寝込んどったんか。
水くさいなぁ。言うてくれたら飯ぐらい作りに来たったのに」
「そうだよー。ケーキ持ってきたのにー」
「寝込んでいるときにケーキはあんまり……」
「そういう問題とちゃうやろ?
兄ちゃんが帰ってきてるもんやから邪魔されたくなかったんか?
それともわたしらのことコロッと忘れてしもうたんか?」
Uの唇が、意地悪な猫口のカーブを作りました。
「えっと……その……忘れたわけじゃないけど」
図星でした。
「まぁええけどな。久しぶりに兄妹水入らずなんを邪魔しとうないし」
コンコン、とドアがノックされました。
「入るぞ」
お兄ちゃんが、冷たい麦茶とお菓子をお盆に載せて入ってきました。
「ごゆっくり」
お兄ちゃんはそう言って、お盆を置いてそそくさと出て行きます。
女の子3人に囲まれるのは不利だ、と悟ったのかもしれません。
わたしはUとVを見てつぶやきました。
「……もう、邪魔してるかも」
「アンタなぁ……」
Uは苦笑し、Vはきょろきょろしました。
わたしが身を起こして麦茶に手を伸ばすと、Uの眉が上がりました。
「アンタ、まだブラしてへんのか?」
「……わたし、まだブラ着けるほど大きくないし……
寝るときはブラ着けないのがふつうでしょ?」
「そやけどなぁ……去年よりちょっとはふくらんでるやろ?
それに……そのパジャマ、チクビが少し透けてるで」
「え? ホント?」
薄い生地の白いパジャマだったので、汗を吸って透けたのかもしれない……と、
わたしは自分の胸を見下ろしました。透けているようには見えません。
「隙あり」
「痛っ」
いきなりUが手を伸ばして、わたしの左胸を揉みました。
手に持ったコップから、麦茶が布団にこぼれてしまいました。
「あ……悪い悪い」
「…………」
パウンドケーキをもぐもぐ頬張っていたVも、手を伸ばそうとして、
わたしの視線の圧力に押し止められました。
「わふぁひはへなはははふへ?」
「当たり前でしょ」
「うーん。まだ固いなぁ……。
風呂で揉んだらもっと大きゅうなるかもしれんで」
Uは右手をにぎにぎさせながら言いました。
「U、その手を動かすの止めて。
ところで………揉むと大きくなるってホント?」
わたしはさりげなく、気になる台詞を確かめました。
「自分で揉むより人に揉んでもうたほうが効くらしいで。
兄ちゃんに揉んでもうたらどないや? にひひひ」
「……U、オヤジくさいよ」
「がーーーん!」
「UはYさんに揉んでもらって大きくなったの?」
「そんなわけないやろ!」
自分から下ネタを口にしたくせに、Uは逆襲されて真っ赤になりました。
「……ところでV、どうしてあなたまで赤くなってるの?」
Xさんとの関係を、もう一度Vに問いつめてみなければ、と思いました。
「ほな、また来るわ」
「ごちそうさまー」
UとVをベッドで見送りながら、考えました。
どこまで冗談かわからないけど、Uの提案は一考の価値があるかも、と。
わたしはまだ微熱が続いているので、お風呂に浸かれませんでした。
蒸しタオルで体を拭いて、ドライシャンプーで髪を洗うだけです。
その夜、わたしは蒸しタオルで背中をこすってもらいながら、
お兄ちゃんに言いました。
背中を向けていて、お兄ちゃんの顔が見えないから言えたのかもしれません。
「……お兄ちゃん」
「ん? なんだ?」