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b君はわたしの肩を抱いて、図書館の外に連れ出しました。
わたしは気分が悪くて、抗うこともできませんでした。
外に出ると、強い日射しが照りつけてきて、眩暈がしました。

「歩ける?」

耳にb君の息がかかりました。
背中を虫が這うような寒気がして、わたしは返事ができませんでした。

「ベンチで休んでいこう」

木立で日陰になっている、公園のベンチに座らされました。
体に力が入らなくて、上体をゆらゆらさせていると、b君が隣に座って、
肩に手を回してきました。

貧血のせいか、目の前が暗くなってきたので、目をつぶりました。
すると、顎の下に指を入れられて、顔を上向きにされました。

わたしはハッと目を見開き、手のひらで目の前に迫った顔を押しのけて、
ベンチから立ち上がりました。

急に立ち上がったので、頭の血が下がって、頭がくらくらしました。
それでもb君から遠ざかるように、よろよろと後じさりました。

「どうしたの?」

b君も立ち上がって、きょとんとした顔つきで尋ねてきました。
わたしが「帰る」と口に出す前に、割り込む声がありました。

「○○、しんどそうやな、だいじょぶか?」

Uの声でした。Uは後ろから、わたしの背中を支えてくれました。

「Uさん? どうしてここに?」

b君は余裕を失った様子で、Uに問いかけました。

「アンタこそなんでここにいるん? ○○と待ち合わせしたんか?」

「いや……たまたまここで会ったんだ」

「ふーん。わたしもたまたま通りかかったんや。
 そんなことより、○○が倒れそうやのになにぼさーっとしとるん?」

「いや、冷房で気分悪くなったみたいだから、ベンチで休ませようと思って」

「○○は休んでへんみたいやけど?
 まぁエエわ。○○を涼しいとこに連れてくんが先やな。
 兄ぃ、タクシー呼んできて」

「あ、わかった、行ってくる」

YさんもUといっしょに来てくれたのでした。
タクシーが来るまでのあいだ、わたしはUにしがみついていました。

タクシーがやってきて、わたしとUとYさんの3人が乗り込みました。
b君も乗ろうとしましたが、Uが制止しました。

「アンタが来てどないするん?
 ○○の服着替えさせたり、男のアンタにはでけへんやろ?
 アンタは神様にでも祈っとり」

タクシーが発車すると、わたしはシートに崩れ落ちました。

「もう安心やで」

「U、お兄さん、ありがとう……」

「話は元気になってからや」

自宅に着くと、Yさんを1階に置き去りにして、2階に上がりました。

「兄ぃ、勝手に物色するんやないで!」

「するかい!」

Uはてきぱときわたしの着替えを手伝い、ベッドに寝かしつけてくれました。

「びっくりしたか?
 兄ぃがだらしないからな。こう見えても家庭的やねんで。
 血の気が戻ってきたみたいやな」

「ありがとう。助かった」

「何があったんか、聞かせてくれるか。やばい雰囲気やったで?
 Vがおったら、bんコト魔王みたいやて言うてるはずや」

「魔王……」

正直、的確なイメージだと思いました。

「お兄さん、放っておいていいの?」

「女の子の部屋は男子禁制や。兄ぃが居ても役には立たへんしな。
 アンタの寝間着姿みて欲情されたらかなわん!」

「U、それひどいよ」

今日初めて、わたしは笑顔になりました。
わたしがいきさつを詳しく語ると、Uの顔色が変わりました。

「なんやそれ! bのヤツおかしいで。文句言うてきたる」

鼻息を荒くして、b君の家に今すぐ殴り込みに行きかねない勢いです。

「ちょ、ちょっと待って」

わたしはUの服の裾を思わず掴みました。
Uが興奮するのと反比例して、頭が冷えてきたのです。

「なんでアンタが止めるんや?」

「よく考えたら……わたしの考えすぎかもしれない。
 b君にはまだ、なんにもされてないし……誤解だったら、大変だよ」

「……アンタもお人好しやなぁ、とにかく明日は図書館行かんとき。
 わたしとVは明日から教会のキャンプやけど、
 なんかあったらすぐにうちの兄ぃに電話するんやで」

「うん」

翌日の午前中、日が高くなるまで寝ていると、電話のベルが鳴りました。


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