148:
b君はわたしの肩を抱いて、図書館の外に連れ出しました。
わたしは気分が悪くて、抗うこともできませんでした。
外に出ると、強い日射しが照りつけてきて、眩暈がしました。
「歩ける?」
耳にb君の息がかかりました。
背中を虫が這うような寒気がして、わたしは返事ができませんでした。
「ベンチで休んでいこう」
木立で日陰になっている、公園のベンチに座らされました。
体に力が入らなくて、上体をゆらゆらさせていると、b君が隣に座って、
肩に手を回してきました。
貧血のせいか、目の前が暗くなってきたので、目をつぶりました。
すると、顎の下に指を入れられて、顔を上向きにされました。
わたしはハッと目を見開き、手のひらで目の前に迫った顔を押しのけて、
ベンチから立ち上がりました。
急に立ち上がったので、頭の血が下がって、頭がくらくらしました。
それでもb君から遠ざかるように、よろよろと後じさりました。
「どうしたの?」
b君も立ち上がって、きょとんとした顔つきで尋ねてきました。
わたしが「帰る」と口に出す前に、割り込む声がありました。
「○○、しんどそうやな、だいじょぶか?」
Uの声でした。Uは後ろから、わたしの背中を支えてくれました。
「Uさん? どうしてここに?」
b君は余裕を失った様子で、Uに問いかけました。
「アンタこそなんでここにいるん? ○○と待ち合わせしたんか?」
「いや……たまたまここで会ったんだ」
「ふーん。わたしもたまたま通りかかったんや。
そんなことより、○○が倒れそうやのになにぼさーっとしとるん?」
「いや、冷房で気分悪くなったみたいだから、ベンチで休ませようと思って」
「○○は休んでへんみたいやけど?
まぁエエわ。○○を涼しいとこに連れてくんが先やな。
兄ぃ、タクシー呼んできて」
「あ、わかった、行ってくる」
YさんもUといっしょに来てくれたのでした。
タクシーが来るまでのあいだ、わたしはUにしがみついていました。
タクシーがやってきて、わたしとUとYさんの3人が乗り込みました。
b君も乗ろうとしましたが、Uが制止しました。
「アンタが来てどないするん?
○○の服着替えさせたり、男のアンタにはでけへんやろ?
アンタは神様にでも祈っとり」
タクシーが発車すると、わたしはシートに崩れ落ちました。
「もう安心やで」
「U、お兄さん、ありがとう……」
「話は元気になってからや」
自宅に着くと、Yさんを1階に置き去りにして、2階に上がりました。
「兄ぃ、勝手に物色するんやないで!」
「するかい!」
Uはてきぱときわたしの着替えを手伝い、ベッドに寝かしつけてくれました。
「びっくりしたか?
兄ぃがだらしないからな。こう見えても家庭的やねんで。
血の気が戻ってきたみたいやな」
「ありがとう。助かった」
「何があったんか、聞かせてくれるか。やばい雰囲気やったで?
Vがおったら、bんコト魔王みたいやて言うてるはずや」
「魔王……」
正直、的確なイメージだと思いました。
「お兄さん、放っておいていいの?」
「女の子の部屋は男子禁制や。兄ぃが居ても役には立たへんしな。
アンタの寝間着姿みて欲情されたらかなわん!」
「U、それひどいよ」
今日初めて、わたしは笑顔になりました。
わたしがいきさつを詳しく語ると、Uの顔色が変わりました。
「なんやそれ! bのヤツおかしいで。文句言うてきたる」
鼻息を荒くして、b君の家に今すぐ殴り込みに行きかねない勢いです。
「ちょ、ちょっと待って」
わたしはUの服の裾を思わず掴みました。
Uが興奮するのと反比例して、頭が冷えてきたのです。
「なんでアンタが止めるんや?」
「よく考えたら……わたしの考えすぎかもしれない。
b君にはまだ、なんにもされてないし……誤解だったら、大変だよ」
「……アンタもお人好しやなぁ、とにかく明日は図書館行かんとき。
わたしとVは明日から教会のキャンプやけど、
なんかあったらすぐにうちの兄ぃに電話するんやで」
「うん」
翌日の午前中、日が高くなるまで寝ていると、電話のベルが鳴りました。