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「そう? どこが?」

お兄ちゃんは首をかしげました。

「どこがってことはないけど、背が伸びたせいかな……?」

お兄ちゃんがじろじろ見るので、わたしはリュックを背負い、
麦わら帽子を目深にかぶりました。

「遅れないように、早めに行きましょ」

待ち合わせ場所に並んで立っていると、UとYさんがやってきました。
Yさんは大袈裟に驚いて、さっそくカメラを取り出しました。

「いや〜可愛いねぇ〜」

わたしは危険信号を察知しました。Uが目を細めたのです。
私服だとパンツルックが多いUには珍しい、キュロットスカート姿でした。

「U、それ新しいスカート?」

「あ、わかるか? そらふつうはわかるわな〜。アホは別やけど」

「なんやU、俺のこと言うてんのか?」

「自覚あったんかいな」

「アホか、わかっててもそんなんいちいち言うか、恥ずかし」

「駅前でデレデレしてるほうがもっと恥ずかしわ」

「誰がデレデレしてんねん」

「……U、お兄さん、人が見てます……」

その時、「ごめんなさぁああああああい!」と声をあげながら、
Vが駆けてきました。少し遅れて、Xさんもやってきました。

「服が決まらなくて〜、遅れちゃったー」

「まだ、約束の時間になってないよ?」

「あ、そうなのー? 走って損したー。汗かいちゃったよー」

「V……あなた、そんな服持ってたの?」

「似合うでしょー?」

ポーズを決めるVの出で立ちは、トロピカル調の大きな花柄の、
派手なワンピースでした。

「似合う……けど」

ちらりとお兄ちゃんに視線を向けると、
「うん、よく似合ってる。可愛い」とお兄ちゃんが言いました。

「やっぱりー? やだー」

喜ぶVの笑顔は輝くようでした。UもYさんも毒気を抜かれたのか、
口喧嘩はうやむやになりました。

「揃ったし、出発しましょ」

ひとりで歩きだすと、お兄ちゃんが追いついてきて、耳許で囁きました。

「お前が一番可愛い」

「……うそ」

そう返事はしたものの、自分の顔がへなへなに崩れるのがわかりました。
我ながら現金なものだと思いました。

電車に乗り込むと、Xさんの足元の大きな鞄が目につきました。
Xさんにカメラの趣味はないはずだし、プールに楽器を持ち込むわけはないし、
いったい何が入っているのだろう、と不思議でした。

「Xさん」

「なに? ○○ちゃん」

「その鞄、何が入ってるんですか?」

返事をしたのはVでした。

「ひーみーつだよー」

Vは顔じゅうを口にして、ドラえもんのような笑みを浮かべました。
わたしは内心、これさえなければVは非の打ち所のない美少女なのに、
と嘆息しました。

プールに着いて、わたしはその規模の大きさに思わず辺りを見回しました。
プールというよりは、レジャーランドでした。

屋外&屋内プール、温泉、ゲームセンターにレストランまで完備です。
入場料金もそれなりでした。

男女別に分かれた脱衣場を出て、シャワーを迂回して中に入ると、
お兄ちゃんたちが待っていました。

シンプルな競泳用水着を穿いて立っているお兄ちゃんを見て、
UもVも思わずため息を漏らしました。

お兄ちゃんは、顔つきが優しくて撫で肩なので細身に見えますが、
脱ぐと美術室の胸像のような見事な筋骨があらわになります。

わたしは密かに誇らしさで鼻が膨らみそうでした。

「○○、冷えるといけないから、これ着てろ」

お兄ちゃんが寄ってきて、ヨットパーカーを肩に掛けてくれました。
わたしにはだぶだぶでした。

カシャリ、と音がしたので目を向けると、Yさんがカメラを構えていました。
意外なことに、Yさんもがっちりした体格をしていました。

「カメラ、濡れても大丈夫なんですか?」

売店で売っている使い捨てではなく、妙に大きなカメラでした。

「これは防水ハウジングに入れてるから大丈夫なんだ。
 水中でも写せるよ。隙間にはパッキンが入っていて……」

「スケベな写真撮るのに最適やな」

勢い込んで説明しようとした出鼻を挫かれて、Yさんが渋い顔をしました。

「もっと他に言うことはないんかいな?」

Uが胸を反らして、新調したばかりのビキニの水着を強調しました。
トロピカル調のVの水着よりは大人しめでしたが、結構大胆な露出度でした。


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